生成AIが「嘘をつく」のはなぜか

生成AIは、インターネット上の膨大なテキストを学習した確率モデルです。「この文脈の次に来るのは、どの言葉が最も自然か」を確率的に計算して文章を生成します。そのため、流暢で説得力のある文章を作るのは得意ですが、事実を記憶・検索しているわけではありません

この仕組みから生まれるのが「ハルシネーション(幻覚)」です。存在しない論文・架空の統計・誤った固有名詞を、さも本当のことのように自信を持って出力することがあります。

AIは「正しいことを言う」のではなく、「それらしい言葉をつなぐ」。その違いを理解しておくことが、安全な活用の出発点です。

なお、2025年に公表された研究では、現在の大規模言語モデルのアーキテクチャのもとでハルシネーションを数学的に完全排除することは困難であるとの報告もあります。つまり、モデルが進化してもゼロにはなりません。この前提を持つことが重要です。

ハルシネーションが特に起きやすい場面

すべての質問で同じようにハルシネーションが起きるわけではありません。次のような場面では特に注意が必要です。

  • 具体的な数値・統計を求めたとき:「〇〇業界の市場規模は?」「△△の成功率は?」など。AIが学習データ上にない数字を「それらしく」作り出すことがあります。
  • 固有名詞(人名・企業名・法律名)を含む質問:「A社の代表取締役は誰?」「この条文の内容は?」などは、誤りが含まれやすい領域です。
  • 専門性が高い領域:法律・医療・会計・税務など、専門的な正確さが求められる分野では、自信ある誤回答が特に出やすくなります。
  • 学習データ締め切り以降の最新情報:AIには知識の「締め切り日」があります。それ以降に起きた出来事は知らないにもかかわらず、推測で答えてしまうことがあります。

業務でAI回答を使うときの4つの確認習慣

ハルシネーションを前提に置けば、AIを安全に使う習慣は自然と決まってきます。

  • ① 重要な数値・固有名詞は公式ソースで裏付ける:AIの回答はあくまで「出発点」。法令・統計・他社情報などは、官公庁や公式サイトで必ず確認します。
  • ② 「出典を教えて」と聞く(ただし出典自体も要確認):根拠を尋ねることで回答の信頼度を測れますが、AIが挙げる出典が架空である場合もあります。提示されたURLや論文は実際にアクセスして確認する習慣をつけましょう。
  • ③ 用途・リスクに応じて検証の深さを変える:社内向けのアイデア出しや文章の草稿であれば確認コストは低くて済みます。一方、顧客への提出物・法的文書・対外的な数値は、専門家のチェックと組み合わせることを基本とします。
  • ④ 「わからない点があれば教えて」と一言添える:プロンプトに「不確かな情報があれば、わからないとはっきり言ってください」と書き加えるだけで、あてずっぽうな回答を抑えられます。

ハルシネーションを減らすための3つのアプローチ

習慣に加えて、仕組みの面からもリスクを下げることができます。

① RAG(検索拡張生成)を活用する

RAGとは、AIが回答する際に信頼できるドキュメントや社内データベースをリアルタイムで参照させる仕組みです。AIが持つ学習データのみで答えさせるのではなく、「正しい情報の引き出し」を別途用意してAIに使わせることで、ハルシネーションを大幅に抑えられます。社内規程・製品マニュアル・FAQ集などを登録しておくと効果的です。

② プロンプトで回答の範囲を絞る

「以下の文章の範囲内だけで答えてください」「確認できない情報は出力しないでください」といった指示をプロンプトに加えることで、AIが勝手に補完する余地を狭められます。テンプレートとして社内で共有しておくと、チーム全体でリスクを下げることができます。

③ 複数モデル・複数情報源でクロスチェックする

特に重要な情報は、異なるAIモデルで同じ質問をして回答を比較したり、Webブラウジング機能があるツールを使って最新情報を参照させたりする方法も有効です。複数の観点から確認することで、単一モデルの偏りやエラーに気づきやすくなります。

まとめ:道具の特性を知ることが、安全な活用の第一歩

包丁は切れすぎるから危険なのではなく、使い方を知らないから危険になります。生成AIも同じです。ハルシネーションという特性を理解した上で、「AIを補助として使い、人が最終確認する」というスタンスで運用すれば、大きな業務価値を安全に引き出せます。

完璧なAIを待つより、今あるAIの限界を知って使いこなすほうが、結果的に早く業務は変わります。

よくある質問

ハルシネーションはいつかなくなりますか?
現在の大規模言語モデルのアーキテクチャのもとでは、ハルシネーションを完全に排除することは数学的に困難との研究報告があります。モデルの進化でリスクは低減していますが、「完全になくなる」前提は危険です。RAGや人によるファクトチェックと組み合わせることで、業務上のリスクは大幅に減らせます。
AI回答を信頼してよい業務と、そうでない業務はありますか?
誤りがあっても修正・確認が容易な業務(文章の草稿作成・アイデア出し・社内向けの要約など)は比較的活用しやすい一方、法的効力のある文書・財務数値・医療情報・対外的な公開資料など「外れたら困る」用途では必ず人が検証する工程を入れることをお勧めします。
プロンプトを工夫すればハルシネーションは減りますか?
一定の効果があります。「不確かな場合は『わかりません』と答えてください」「〇〇の範囲内の情報だけで答えてください」といった指示を加えることで、あてずっぽうな回答を減らせます。ただし万能ではないため、RAGの活用や人によるファクトチェックと組み合わせることが重要です。

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