「受発注のデジタル化」が進まない現場の実態
2026年9月28日、株式会社コマースロボティクスは「B2B受発注電子化の実態と事業機会」と題した調査結果を発表しました(一次情報:PR TIMES、2026年9月28日)。調査の整理によれば、大手同士の取引ではEDI・ECを通じた受発注の電子化が進む一方、大手と中小・中小同士の取引では依然としてFAX・電話・メールによるアナログな受発注が多く残っているとされています。
この構造は卸業界に限りません。同年3月には株式会社タノムと株式会社インフォマートが卸業者142社を対象に実施したDX実態調査の結果を発表しており(PR TIMES、2026年3月16日)、受発注業務でFAXや電話による対応に限界を感じると回答した企業は81%に上りました。また「受発注処理の属人化・手作業の工数」を課題に挙げた企業も66.9%でした。
つまり状況はこうです。FAXや電話で注文を受ける会社の多くは、その受注内容を担当者が目視で読み取り、基幹システムやスプレッドシートに手で入力しています。「この作業をもっと効率化したい」と感じながら、「どこから手をつければよいかわからない」まま、毎日くり返している会社が多いのが現状です。
受注手入力が引き起こす3つの課題
「忙しいときは大変だが、回っているからまあいい」と後回しにされがちな受注手入力の問題は、単純な非効率にとどまりません。3つの課題として整理できます。
課題1:時間と人件費のコスト
1件の注文書を処理するのにかかる時間は業種・レイアウトによって異なりますが、FAXを受信して確認し、品番・数量・納期・配送先をシステムに入力し、入力内容を照合するまでを含めると5〜15分程度を要するケースが多くあります。1日20件の受注があれば毎日1〜3時間が手入力作業に消えます。人手不足が深刻化するなか、この工数は無視できないコストです。
課題2:転記ミスによるクレームとやり直し
手入力はミスを生む構造です。読み間違い・入力漏れ・桁ミスが起きると、誤った数量での出荷、誤納期の確定、在庫の二重押さえなどのトラブルにつながります。クレーム対応や再出荷の手間は受注処理コストの何倍にもなることがあります。「大きなミスはない」という会社でも、確認の電話や再確認のFAXが日常的に発生しているなら、それ自体がコストです。
課題3:担当者の属人化と退職リスク
FAX受注の処理は担当者のスキルや記憶に依存しやすい業務です。取引先ごとのフォーマットの違いの把握、略称・商品コードの読み解き、イレギュラーな注文の判断——これらのノウハウが特定の担当者の頭の中だけにある状態は、退職・休職・引き継ぎのたびに業務が止まるリスクを抱えています。前述の調査でも「受発注処理の属人化」を課題に挙げた企業が66.9%に上ったことは、この問題の広がりを示しています。
自社の受注業務を確認する7項目
次のチェックリストを参考に、自社の受注業務の現状を確認してみてください。
| # | 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 1日あたりのFAX・メール受注件数 | 10件超ならAI-OCR化の効果が出やすい |
| 2 | 手入力にかかる1日の合計時間 | 30分超なら省人化の余地がある |
| 3 | 転記ミスによるクレームの頻度 | 月1件以上あれば再発防止策が必要 |
| 4 | 取引先ごとに注文書フォーマットが異なるか | フォーマットの種類を把握する |
| 5 | 受注担当者が休んだとき誰が引き継げるか | 「自分だけが分かる」状態は危険信号 |
| 6 | 受注データを後から検索・集計できるか | 紙やFAX保存だけだと分析ができない |
| 7 | 受注から出荷指示・請求書発行まで手動でつないでいるか | 工程間の転記が多いほど自動化の恩恵が大きい |
3つ以上該当する場合、現状のままでは人手不足の深刻化とともに負担が増す一方です。「どこかで整理が必要」という課題感があるなら、次のステップを参考に取り組みの入口を考えてみてください。
手入力をなくす3つのステップ
「FAX受注をすべてシステム化する」という一括移行は現実的ではありません。段階的に進めることが、取引先への負担を最小化しつつ効果を出す近道です。
ステップ1:クラウドFAX+AI-OCRで手入力を自動化する(自社だけで始められる)
最初のステップは、取引先に何も変えてもらわなくてよい対応です。クラウドFAXサービスに切り替えると、届いたFAXがPDFデータとしてシステムに入ってきます。このPDFをAI-OCRで読み取ることで、品番・数量・納期などの項目を自動でデータ化できます。
読み取ったデータは基幹システムへのCSV取り込みや、APIを使った直接連携に使えます。取引先のFAX操作は変わりません。自社の受信〜入力の工程だけが変わります。
注意点として、活字印刷のFAX(PC作成・印刷)は高精度で読み取れますが、手書き文字や崩れたレイアウトは確認が必要になることがあります。最初は「上位10社からの注文書のみ」に絞って運用し、精度と業務フローを確認してから対象を広げるのが現実的です。
ステップ2:取引先にWebフォームで注文してもらう(協力を得られる取引先から)
FAXをなくす根本策は、取引先に自社のWebフォームから注文を入力してもらうことです。取引先がフォームに入力した内容がそのままデータになるため、手入力も転記ミスも発生しません。
移行の現実的な進め方は、関係性の強い取引先・量の多い取引先から順に協力を依頼することです。「発注の手間が減ります」という提案であれば受け入れてもらえるケースが多くあります。移行前に「試しに使ってみてください」と声をかけ、操作の簡単さを実感してもらえれば移行率は上がります。
取引先ごとに商品や単価が異なる場合でも、ログイン別に表示内容を切り替える機能を持つシステムで対応できます。
ステップ3:受発注システムで在庫・出荷・請求まで一気通貫にする
受注データが入ってきた後、在庫の引き当て・出荷指示・請求書発行まで手作業でつないでいる場合、工程間の転記がミスと工数の温床になっています。受発注システムで一気通貫に管理すると、受注確定から出荷・請求書発行まで自動的に連携し、入力作業がほぼなくなります。
既存の基幹システムと連携させる場合、CSV取り込みやAPIが使えるかどうかが選定の基準になります。既存システムにその機能がない場合は、連携のための改修や中間システムの構築を検討する段階です。
どこから手をつけるかの判断基準
3ステップを一度に進める必要はありません。自社の状況に合わせた入口を選ぶことが重要です。
- 手入力の工数削減を急ぐなら:ステップ1のAI-OCR化から。取引先の同意不要で始められます。
- 転記ミスのクレームをなくしたいなら:ステップ2のWebフォーム移行から。入力者が取引先自身になるため、ミスの発生源がなくなります。
- 受注後の出荷・請求の手作業をなくしたいなら:ステップ3の一気通貫システム化から。業務フローの全体設計が必要です。
「何から始めれば費用対効果が高いか」は会社によって異なります。受注件数・取引先の数・現行システムの状況・人員体制を整理してから判断するのが確実です。
よくある質問
AI-OCRで注文書を読み取る精度はどのくらいですか?
クラウドFAXへの切り替えは取引先の了承が必要ですか?
既存の基幹システムとAI-OCRを連携させるのは難しいですか?
Webフォームで注文を受けるとき、取引先ごとに商品や単価が違う場合はどうすればよいですか?
出典
・コマースロボティクス「B2B受発注電子化の実態と事業機会」調査(PR TIMES、2026年9月28日):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000087427.html
・タノム×インフォマート「卸業界のDX実態調査」(PR TIMES、2026年3月16日):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000036.000047175.html
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