警察庁が公表した令和8年上半期の状況

警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月10日公表)によると、上半期のランサムウェア被害の届出件数は123件で、2020年下半期に統計を取り始めて以降、半期として過去最多となりました。

企業・団体の規模別内訳は、中小企業79件(約64%)、大企業31件、団体等13件です。業種別では製造業が37件と最多で、全体の約3割を占めています。

本稿では感染経路の特定や原因の推測は行いません。公表された統計から中小企業に当てはまる教訓を整理し、自社で今日から確認できることを提示します。

中小企業に関係する3つの論点

論点1:件数では中小企業が多数派

「大企業が狙われる」というイメージがありますが、被害の件数でいえば中小企業が全体の約6割を占めています。攻撃の手口が自動化・大量送信型のものでは、企業規模に関係なく感染の機会が生まれます。「自社は小さいから狙われない」という前提は、統計と合っていません。

論点2:製造業・物流業は「止まること」で損失が直撃する

ランサムウェアに感染すると、業務に使っているファイルやデータベースが暗号化され、業務システムにアクセスできなくなります。製造業で受注データ・出荷指示・在庫情報が使えなくなると、ラインが止まります。物流業で配送スケジュールや荷主連絡先が失われると、当日の配送が組めません。

「情報漏えい」と違い、ランサムウェアは業務停止として即日に影響が出ます。製造業が最多業種(37件)であることは、この「止まる業種」での被害が統計にも表れていると読めます。

論点3:「戻せるかどうか」が被害の規模を決める

同レポートの調査(回答を得た一部の被害組織が対象)では、復旧費用・期間について深刻な数字が示されています。バックアップが適切にあれば業務停止の期間は短くなりますが、バックアップが感染したPCと同じ場所に保存されていたり、世代管理されていなかったりすると、バックアップごと暗号化されてしまいます。

「感染した後に戻せるか」を事前に確認しておくことが、被害の大小を分ける最大の要因のひとつです。

自社で今日から確認できる5項目

技術的な知識がなくても、担当者や外注先に質問することで確認できる項目です。

#確認すること答えられないときのリスク
1業務に使っているデータ(受注・顧客・在庫など)は、どのサーバーやクラウドに保存されているか感染時にどこが影響を受けるか判断できない
2バックアップを最後に取得したのはいつか。自動で取れているか、手動か手動運用は担当者が変わると止まる。直近の状態に戻せない
3バックアップから実際にデータを復元できるか、過去に試したことがあるかバックアップがあっても壊れていて戻せないケースがある
4バックアップデータは、業務PCやサーバーと常時接続されていないストレージに保存されているか感染端末と同期していると、バックアップも暗号化される
5業務システムのバックアップ設定を管理しているのは誰か。その担当者が不在でも確認できる状態か属人化によりバックアップが止まっていても誰も気づかない

1〜3に即答できない場合、まず現状把握から始めることをおすすめします。

バックアップ自動化を進める3つのステップ

確認した結果をもとに、次の3つのステップで業務データの保護を進めることができます。小さく始めて段階的に整える順序です。

ステップ1:何がどこにあるかを整理する

まず「保護すべきデータの場所」を整理します。受注データはどのシステムのどのデータベースに入っているか、顧客情報はどのサーバーに保存されているか、経理・会計データはどのクラウドサービスを使っているか——これらを一覧にします。

担当者の頭の中だけにある状態では、その人が不在のときに動けません。一覧は誰でも見られる場所に置くのが前提です。

ステップ2:バックアップを自動化する

一覧ができたら、各データに対してバックアップを自動化します。ポイントは3つです。

  • 頻度:日中に受注・出荷が動くシステムなら、少なくとも日次の自動バックアップが目安です。
  • 世代管理:直近1件だけでなく、過去7日分など複数世代を保持することで、感染に気づかず上書きされるリスクを減らせます。
  • 保存先の分離:業務PCやサーバーと常時接続されていないクラウドストレージや外部メディアに保存します。

クラウドサービス(受発注・会計・顧客管理など)を利用している場合は、そのサービスのバックアップ設定や、提供されているエクスポート機能を確認します。設定でオフにされていることがあるため、現在の状態を確認することが最初のステップです。

ステップ3:定期的に「戻せること」を確認する

バックアップが取れていても、壊れていては意味がありません。四半期に1回など定期的に復元テストを行い、「実際にデータが戻るか」を確認する手順を決めておきます。

また、バックアップが正常に完了したかを自動でメール通知する設定があるシステムの場合は、通知先のメールアドレスが生きているか、通知が届いているかを月次で確認します。「通知が届いていないこと」に誰も気づかない状態をなくすことが目的です。

よくある質問

ランサムウェアはどこから侵入するのですか?
警察庁「令和8年上半期サイバー脅威情勢」によると、回答を得た被害組織のうち約半数がVPN機器からの侵入だったと報告されています。そのほか、フィッシングメールの添付ファイル・URLからの感染も引き続き確認されています。VPN機器の脆弱性対策については、以前の記事「デジタル庁GSSへの不正アクセスが示したこと」も合わせてご参照ください。
クラウドにデータを保存していれば安全ですか?
クラウドは保存の信頼性は高いですが、ランサムウェアに感染した端末が同期ソフトで接続されていると、クラウド上のファイルも暗号化される場合があります。クラウドを使う場合も、世代管理(一定期間前のバージョンに戻せる設定)や、同期の対象外になった別ストレージへのバックアップの組み合わせが重要です。
バックアップはどれくらいの頻度で取ればよいですか?
業務の性質によって異なりますが、受注・在庫・顧客データのように日中更新が続くシステムであれば、少なくとも日次の自動バックアップと週次の世代別バックアップを組み合わせることが目安です。「最後にバックアップを手動で行った」という運用は、担当者が変わると途絶えるため、自動化が前提になります。
業務システムが古い場合、バックアップの仕組みを後から追加できますか?
既存システムへのバックアップ自動化の追加は技術的に可能ですが、システムの構造によって方法と工数は異なります。まず「何のデータがどこに保存されているか」を整理することが最初のステップです。当社では、既存システムの構成確認から始めて、バックアップ設計・自動化の組み込みまで対応しています。

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」2026年9月10日公表

関連記事:デジタル庁GSSへの不正アクセスが示したこと|VPN機器の既知脆弱性を自社で点検する手順

株式会社DnDは、バックアップとセキュリティ対策を標準で組み込んだシステム開発を行うDX/AX(AIによる業務変革)パートナーです。

  • 業務システムのバックアップ設計・自動化:受注・顧客・在庫など業務データの保存場所を整理し、日次の自動バックアップ・世代管理・復元確認の仕組みを組み込んだシステムを開発・改修します。既存システムへのバックアップ機能追加にも対応します。
  • セキュリティを標準で組み込んだシステム刷新:新規開発・既存システムの刷新時に、認証・権限管理・秘密情報の扱い・バックアップ・ログ取得の8項目を標準対応します。納品時には確認した項目と結果の一覧をお渡しします。
  • 既存システムの点検:バックアップ設定の確認を含む既存システムのセキュリティ点検を行います。対象システムの権利をお持ちの方からのご依頼に限ります。

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