何が変わったか:「努力義務」から「義務」へ

これまでカスタマーハラスメントへの対応は、職場のハラスメント防止対策の文脈で「望ましい取り組み」として位置づけられており、法的な義務ではありませんでした。

2025年6月11日に公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」により、カスハラ対応が雇用管理上の措置義務として正式に位置づけられ、2026年10月1日に施行されました。具体的な措置の内容は、2026年2月26日に告示された「令和8年厚生労働省告示第51号」で定められています。

この改正で事業主に求められる措置は、大きく次の5つです。

  1. 基本方針の策定と周知・啓発:カスハラを許容しないという事業主の姿勢と対応方針を文書化し、従業員に周知する。
  2. 相談体制の整備:従業員が相談できる窓口を設け、その存在を周知する。
  3. 事後の迅速かつ適切な対応:事案が発生した際、事実を確認し、被害を受けた従業員への配慮措置を講じる。
  4. 再発防止のための措置:原因を分析し、再発を防ぐための対応を行う。
  5. プライバシー保護と不利益取扱いの禁止:相談した従業員の情報を適切に管理し、相談を理由とした不利益取扱いを行わない。

自社の業務に関係する3つの論点

義務化の内容を自社の日常業務に引き寄せると、特に次の3つが実務上の課題として浮かび上がります。

論点1:記録がないと「対応した」が証明できない

事案が発生した際の「事実確認」と「被害者への配慮措置」は、どちらも記録がなければ実施の確認ができません。電話でのクレーム対応を口頭で上司に報告して終わりにしている、担当者のメモが個人のノートにしか残っていないという状況は、義務を形式的に果たしているとはいえません。

記録すべき内容は「いつ・誰が・どのような言動があり・どう対応したか」です。これが残っていなければ、後日の事実確認も、同じ相手から繰り返された場合の対応判断も、再発防止の分析も、いずれも根拠を持って行えません。

論点2:担当者が変わると情報が消える

特定の顧客からの迷惑行為が繰り返されているケースで、前回の経緯が引き継がれていないと、対応者が毎回ゼロから状況を判断することになります。これは従業員にとっての負担であり、対応の一貫性を損ないます。顧客対応の記録が個人の手元にしか残っていない場合、担当者の退職や異動を契機に情報が失われるリスクがあります。

論点3:相談窓口を設けても、利用されなければ機能しない

相談窓口を設置することは義務の一部ですが、従業員が実際に相談できる環境かどうかも重要です。「上司に相談したら大ごとになりそう」「どこに言えばいいか分からない」という状況では、義務を形式的には満たしていても、実態としては機能していません。相談しやすい経路と、相談した際の動き方(誰が確認し、いつまでに返答するか)をあらかじめ明確にすることが求められます。

自社で確認できる5項目

以下は、今日から確認を始められる項目です。担当者がいる会社では、これらを一緒に確認することをお勧めします。

#確認すること整っていない場合の課題
1カスハラへの対応方針が文書化・周知されているか従業員が「どこまで対応するか」を判断できない
2相談窓口が設置・周知されており、利用方法が分かるか被害が現場に蓄積され、報告されないまま経過する
3対応した日時・内容・対応者が記録として残るか事後の事実確認・再発防止の分析が根拠を持てない
4記録を管理する担当者と閲覧できる範囲が決まっているか情報が散逸・漏洩するリスクがある
5深刻な事案が上長・法務・外部専門家に連携される経路があるか対応が現場だけに留まり、悪質な事案を見逃す

1・2が整っていない場合は、まず方針の文書化と相談窓口の案内から着手することをお勧めします。

記録・相談体制をデジタルで整える3つのアプローチ

義務を継続的に機能させるには、「書類を作った」で終わらず、日常業務の中で記録が自然に残る仕組みが必要です。規模や予算に応じた3つのアプローチを紹介します。

アプローチ①:既存ツールへのフォーマット整備(最小コスト)

Notionやスプレッドシートなど、すでに使っているツールに「顧客対応記録」の入力フォーマットを設ける方法です。「日時・顧客情報(任意)・対応者・言動の概要・対応内容・エスカレーション要否」を定型化しておくだけで、記録の抜け漏れが減ります。追加費用なしで始められ、まず記録する習慣を作る第一歩として適しています。

アプローチ②:業務システムへの組み込み

受注管理・CRM・顧客管理システムに「クレーム・応対記録」の機能を追加し、顧客情報と紐づけて管理する方法です。同じ顧客からの対応履歴を時系列で追えるようになり、担当者が変わっても経緯が分かる状態を作れます。既存システムへの追加開発として対応できる範囲であれば、新規システムを導入するよりコストを抑えられます。

アプローチ③:AIによる記録支援の組み込み

電話対応やチャット対応の内容をAIで自動文字起こし・要約する仕組みを組み込む方法です。対応者が対応後に都度入力する手間を減らしながら、記録の精度と一貫性を高められます。通話録音→文字起こし→サマリー生成のフローを業務システムと連携させると、記録業務のコストを大きく下げられます。カスハラ案件が多い業種(コールセンター・小売・飲食・医療など)では、特に効果を出しやすいアプローチです。

小さく始めて段階的に整える

3つのアプローチはすべてを一度に導入する必要はありません。「今日から方針を文書化する→来月から記録フォーマットを使い始める→半年後に業務システムに組み込む」という段階的な進め方が、継続しやすく実態を伴った体制につながります。

注意したいのは、記録の仕組みを整えることと、従業員が使える環境にすることは別の問題だという点です。ツールを導入しても使われなければ意味をなしません。記録のルール・相談の動線・エスカレーションの判断基準を明確にしたうえで、現場への周知と定着を同時に進めることが大切です。

よくある質問

カスハラ対策義務化は小規模な会社にも適用されますか?
はい、労働者を1人でも雇用している事業主はすべて対象です。業種・規模による区別はなく、猶予期間もありません。パートタイム労働者や契約社員も「労働者」に含まれます。
電話でのカスハラはどう記録すればよいですか?
対応後にメモを書き起こし、日時・対応者・顧客の言動・対応内容を残す方法が最初の一歩です。システム化する場合は、通話録音と自動文字起こしを組み合わせると入力コストを下げられます。記録の保存先と閲覧できる担当者の範囲もあわせて決めておくことが重要です。
方針を書いて周知するだけで義務を果たしたことになりますか?
方針の策定・周知は義務のひとつですが、それだけでは不十分です。相談体制の整備・事案発生時の事実確認と被害者への配慮・再発防止措置も義務として求められます。「書類を作る」だけでなく、実際に機能する仕組みとして整備する必要があります。
カスハラに該当するかどうか自社では判断できません。
厚生労働省が公表している指針(令和8年厚生労働省告示第51号)では、「顧客等からの著しい迷惑行為」が対象とされており、具体的な行為例も示されています。社内での判断が難しい場合は、まず同指針と厚生労働省が公開しているマニュアル・リーフレットを参照し、社労士等の専門家に相談することをお勧めします。

出典:「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(2025年6月11日公布)/「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」(2026年2月26日告示)

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株式会社DnDは、業務システム・Webシステムの受託開発とAIの業務組み込みを行うDX/AX(AIによる業務変革)パートナーです。顧客対応の記録・管理システムの開発(既存の受注管理・CRMシステムへの機能追加を含む)、通話録音とAI要約を組み合わせた記録支援の組み込み、相談・報告フローのWebシステム化など、カスハラ対策の仕組みづくりをシステム面からサポートします。「まず何から整えればよいか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

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