新しいAIツールを入れる前に確認したいこと

「AIを業務に取り入れたい」という相談を受けるとき、まず確認するのは「今使っているツールのAI機能を試しましたか?」という問いです。新たなサービスを契約する前に、すでに払っているサブスクリプションに何が含まれているかを把握することが、コストを無駄にしない最初のステップです。

Microsoft 365(旧Office 365)とGoogle Workspaceは、日本の中小企業が最も広く使っているビジネスツールです。この2つには、ここ数年でAIを活用した機能が継続的に追加されており、2026年時点では文書作成・メール対応・会議の文字起こしなど、日常業務の多くに活用できる段階に入っています。

Microsoft 365のAI機能(Copilot)でできること

Microsoftは「Microsoft 365 Copilot」という名称でAI機能を展開しています。利用できる機能は契約プランによって異なりますが、代表的な活用場面は次の通りです。

  • Outlook(メール):過去のメールスレッドを要約する、返信文の下書きを生成するといった用途で、一通ごとの処理時間を短縮できます。
  • Word(文書作成):ひな形や指示を与えると文章の初稿を生成します。報告書・提案書・議事録など、書くことに時間がかかる業務全般に活用できます。
  • Excel(表計算):自然言語で「先月比で売上を比較して」といった指示を出すと、数式の提案やグラフ生成を補助します。Excelの操作に不慣れな担当者でも複雑な集計を行いやすくなります。
  • Teams(会議):会議の文字起こしと要約を自動生成します。「誰が何を決めたか」「次のアクションは何か」を会議直後に確認できるため、議事録作成の工数を大幅に削れます。
Copilotは「何でもやってくれるAI」ではなく、「書く・まとめる・探す」という作業の補助に特化した道具です。この用途の頻度が高い業務から試すと効果を感じやすくなります。

Google WorkspaceのAI機能(Gemini)でできること

Googleは「Gemini」というAIをGoogle Workspaceに統合しています。Microsoft同様に契約プランによって利用範囲が異なりますが、日常業務に直結する機能が揃っています。

  • Gmail(メール):メールのスレッドを要約したり、状況を伝えると返信文を下書きしたりする機能があります。受信メールが多い担当者ほど効果を感じやすい用途です。
  • Google Docs(文書):テーマや概要を入力すると文章の初稿を生成します。WordのCopilotと同様に、報告書・議事録・案内文など幅広く使えます。
  • Google Sheets(表計算):自然言語でデータの集計・整理を指示できます。関数が苦手な担当者でも複雑な操作を依頼できる入口として機能します。
  • Google Meet(会議):会議中にリアルタイムでメモを自動生成し、終了後に要約を提供します。Teamsと同様に議事録作成の時間を削れます。

既存ツールのAIで対応できる範囲と、対応が難しい範囲

MicrosoftとGoogleのAI機能に共通する特徴は、「汎用的な文章処理と情報整理が得意」という点です。具体的には次の用途で効果が出やすいです。

  • 定型的なメール・書類の下書き生成
  • 会議や文書の要約・要点抽出
  • 簡単なデータ集計・グラフ化の補助
  • 文章の校正・言い回しの改善提案

一方で、次のような用途には限界があります。これらは「汎用ツールのAIでは対応できない領域」として認識しておくことが重要です。

  • 自社データと連動した分析:自社の受注履歴・顧客データ・在庫情報などを参照しながら回答する用途は、汎用AIだけでは実現しません。自社データをAIに読み込ませる仕組み(RAGや専用ダッシュボードなど)が別途必要です。
  • 業務フロー全体の自動化:「メールが届いたら自動で会計ソフトに転記する」といった業務横断の自動化は、ワークフロー自動化ツールやカスタム開発と組み合わせる必要があります。
  • 繰り返し業務の完全自動化:承認フロー・在庫発注・請求処理といった定型業務の「ゼロ手動化」は、既存ツールのAIだけでは達成が難しく、専用の仕組みが必要です。

まず試す3つの切り口

「どこから始めればいいかわからない」という場合は、次の3つから始めると効果を実感しやすくなります。

  • ① メールの返信下書き:1週間、外部宛ての返信メールを書く前にAIに下書きを作らせてみる。「使えるか使えないか」ではなく「どう使えば効率が上がるか」を実感するための最短ルートです。
  • ② 会議の議事録要約:TeamsまたはGoogle Meetの会議要約機能をオンにして、手書きの議事録と比較する。作成時間の差を数字で確認することで、社内への展開可否を判断しやすくなります。
  • ③ 既存文書の要約・検索:過去の提案書・規程・マニュアルをAIに要約させ、必要な情報を探す時間を計測する。この用途が有効なら、社内ナレッジのAI活用(RAG構築など)の優先度を上げる根拠になります。

3つを試した後に「ここは改善できた」「ここは物足りなかった」を書き出すことで、次に投資すべき領域が見えてきます。ツールありきで進むより、「課題ありき・ツールは手段」の順番を保つことが、遠回りを防ぐ近道です。

「使い倒した先」に見えてくること

既存ツールのAIを十分に試した結果として、「汎用AIでは自社の課題は解決しない」という結論に至ることがあります。それは失敗ではなく、次のステップへ進む確かな根拠ができた状態です。

たとえば「自社の過去案件データを参照しながら提案書を書きたい」という要件が浮かび上がれば、RAGを使ったナレッジベース構築が選択肢に入ります。「毎週の売上レポートを自動生成したい」となれば、専用ダッシュボードや自動化の仕組みが必要になります。既存ツールを使い倒す過程で課題が明確になるほど、次の投資判断は精度が上がります。

よくある質問

AIが下書きした文章はそのまま送っていいですか?
そのまま送ることはお勧めしません。AIの出力はあくまで「下書き」であり、事実確認・ニュアンスの調整・誤字の確認は送信前に人が行う必要があります。「ゼロから書く時間を減らすための補助」として使うのが現実的な活用方法です。チームで使う場合は、AIを使ったことを前提とした確認フローをルールとして決めておくと安心です。
Microsoft 365とGoogle Workspace、どちらのAI機能を使えばいいですか?
すでに会社で使っている方を先に試すのが基本です。新たに乗り換えるコストは小さくないため、今の環境でできることを使い尽くしてから判断しましょう。両方使っている場合は、メール・カレンダー中心の業務ならGoogle側、WordやExcelでのデータワークが多いならMicrosoft側から試すと効果を感じやすい傾向があります。
既存ツールのAIだけで業務改善は完結しますか?
文書作成の補助や会議メモの自動化など、汎用的な用途は既存ツールのAIで大きく改善できます。一方、「自社の受注データと連動した分析をしたい」「特定の業務フローを丸ごと自動化したい」といった要件には限界があります。既存ツールで試して「物足りない部分」を把握してから専用の仕組みを検討するのが、投資の無駄を防ぐ正しい順番です。

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